第6回晴れの国おかやま7時間エンデューロ

大会レポートTEAM MATRIX POWERTAG 向川選手のサイクルコラム

第6回晴れの国おかやま7時間エンデューロ、お疲れ様でした。
前夜から降り続いた雨もスタート前には止み、快晴の中、熱い7時間の戦いが繰り広げられました。雨は止んだもののスタートから約2時間は路面が濡れたままのウェットコンディションでした。私も4時間の先頭でスリップ注意を呼びかけながらコーナーで速度を落として走っていました。しかし、集団全員が同じ速度でコーナーを曲がるのは不可能で、速度差が出てくる集団の後方や、コーナーで追い抜きをする選手がスリップして転倒するのを見かけました。周回を重ねても、単独でスリップして転倒していました。

今回のコラムは滑り易い路面での対策について書きたいと思います。
なぜ今回はこんなに路面が滑り易かったのか?通常サーキットはレーシングカーや改造した車両が走行します。その際に排気ガスに混じってオイルも一緒に大気放出されます。それが路面に散りばめられた状態になっており、乾いているとアスファルトに染み込んだ状態になっているので滑りませんが、水を含むと表面にオイルが浮き上がってきます。それが、滑る一番の要因です。

2つ目の要因は、アスファルトです。サーキットの路面は、レーシングカーのタイヤに食い込むように少し荒い作りになっています。自転車のタイヤだと、荒過ぎて接地面が少なくなります。また、タイヤの空気圧が高いとタイヤが跳ねて密着していない場合もあります。自転車の場合はサメ肌のように作られている競輪場の路面がタイヤの能力を最大に引き出してくれる路面だとすると、サーキットはその真逆だと考えておいた方が無難でしょう。

では、どの様にすれば転倒せずに走れるのか?注意すべき点は、以下の通りです。

1) 試走は行いましたか?
2) 適正な速度でコーナーに入りましたか?
3) タイヤのセッティングは適切でしたか?

1) について、試走は安全にレースを走行する為、またコースを熟知する事でレース中の体力を温存して走る事にもつながります。以前走った事のあるコースでも、路面コンディションは日々変わります。レース序盤からペースを上げていきたい方は必ず試走を行って下さい。今回のレースだと、試走して滑りやすいと感じたら、空気圧の変更くらい行えたかもしれません。
レース前に試走時間が設けられているのは、ウォームアップも勿論ですが、安全確保という観点の方が強いです。

2) について、コーナーの曲がり方を説明します。
まず、分って頂きたいのは、濡れている路面ではドライコンディションのようにタイヤがグリップしない、すなわち路面の摩擦係数が低くなっている事です。路面が濡れていることによって、滑る要因が浮き彫りに現れます。アスファルトがすり減っている場合、路面が荒れていてタイヤの接地面不足の場合、オイルが染みついている場合、様々なケースがあります。ドライコンディションだと最近のタイヤは性能が良いのでグリップの限界まで攻め込むシチュエーションは少ないですが、路面状況が悪いと容易にグリップの限界を迎えるので、自分で限界を越えない様にスピードとブレーキをコントロールする必要があります。オーバースピードでコーナーに入ってからでは、手遅れです。コーナー中にブレーキをかけて減速しようとすると、タイヤがロックして転倒します。タイヤのグリップ力が10とすると、ブレーキングで5使ったら遠心力に対しては5しか使えません。なので、コーナーに入る前に減速を行い、コーナーに入り遠心力と戦っている時はブレーキングをしない様にします。そうすれば、遠心力に対して10のグリップ力を使えるので、安全に速くコーナーを曲がる事が出来ます。
また、フロントフォークから伝わってくる手応えでタイヤのグリップ具合も確認します。ロードバイクはサスペンションなど余計なものがついていないので分かり易いと思います。言葉で表現するのは非常に難しいですが、タイヤがしっかりグリップしている時は、コーナーで自転車を倒しこんだ時にハンドルがグーッと重くなります。しかし、滑り易い路面でグリップが不安定な状態では、自転車を倒しこんでもスーッと力が抜ける感じがします。この様に感じたら、滑る前の前兆です。それ以上自転車を倒しこむと恐らくスリップして転倒するので自転車を起こし気味でコーナーを抜けて行くようにしましょう。

3) 最後はタイヤのセッティングについてです。
何用のタイヤを装着していましたか?だいたいどのメーカーも練習用・試合用という具合にタイヤのランク分けをしていると思います。何が違うか?と言いますと、重量・耐久性・グリップ力が大きく違います。練習用は重量が重く、タイヤは減りにくいがグリップ力が劣るものが多いです。試合用は重量が軽く、タイヤは減り易いがグリップ力は良いというものが多いです。出来ればレースに出る時は、試合用のタイヤを装着して頂きたいです。特に路面状況が悪い場合はグリップ力に大きく差が出ます。
次に空気圧ですが、滑り易い路面の場合、私は普段より0.5気圧くらい落とします。空気圧の設定は一概に何気圧が良いと言い切れないのが事実です。タイヤメーカーが違うと同じように8気圧入れても硬さ・タイヤの潰れ具合が違いますし、体重が60kgの人と70kgの人でもタイヤの硬さの感じ方や、潰れ具合が違ってきます。基本的な考えとして、体重の軽い方は、タイヤメーカー指定空気圧の低い方で調整、体重の重い方は指定空気圧の高い方で調整して頂くと良いかと思います。
あと、同じタイヤメーカーで統一して使用すると、タイヤの癖が分かるので、雨の日は何気圧が良い、晴れの日は何気圧がベストと分かり易いと思います。

上に色々と書きましたが、レース中に他の人は転倒していないのに、自分だけスリップして転倒したと、疑問に思っている方がいるかと思います。上の3つをその時に実践していたかどうかで大きく変わるのが分かって頂けたでしょうか?せっかくエントリーしたレースを転倒で途中リタイヤするのは悔しいですし、ケガもしたくないですよね。そして大切な自転車も壊したくないですよね。レース中、熱くなる気持ちは選手として大切だと思いますが、それを時と場合によってコントロールするのが本当の選手だと思います。
今回はレース序盤の約2時間が滑り易い路面でした。熱くなる気持ち、焦る気持ちをセーブしてレース後半で爆発させる走り方も、1つだったのではないでしょうか。